区民公開講座 小児の発達障害

2023年7月1日(土) 15時00分~
江東区医師会館 4F 講堂

区民公開講座

小児の発達障害

東京都立墨東病院 小児科
冨尾 則子

 

 発達障害の原因は、生まれつきの脳機能の偏りが原因であると考えられています。米国精神医学会の精神疾患の診断分類(DSM-5)では、神経発達症群に含まれ、知的発達症、吃音症を含むコミュニケーション症群、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症、発達性協調運動症を含む運動症群などがあります。本日は、ASD、ADHDおよび、発達障害と愛着障害についてお話しさせていただきます。

 

1、自閉スペクトラム症(ASD)について

 ASDは二つの特徴があり、一つは他人とのコミュニケーションの取り方が独特で、相手の状況に自分の行動を合わせることが苦手な事、曖昧なことを理解するのが苦手な事です。もう一つは、こだわりの強さで、常同行動やいつもと同じ手順や方法、物の並べ方にこだわりがあり柔軟に変更することが苦手な事です。ASDの子にとって、同じ行動を続ける常同行動は、味わい深く興味尽きない運動遊びであると同時に、さまざま刺激の変化に溢れる混乱的な環境の中で、自力で少しでも恒常的で安定した環境にするための行動ともいえます。その他に感覚の偏りがあり、聴覚、味覚、触覚などに過敏性がある一方、温痛覚には鈍感な事もあります。

 ASDは、ADHDや限局性学習症、発達性協調運動症が併存している場合もあります。そして、特性そのものからくる一次的な問題と、過剰なストレスやトラウマが引き金となって、頭痛や腹痛、食欲不振などの身体症状や、不安、うつ、興奮しやすさなどの精神症状といった二次的な問題があります。できるだけ子どもの特性に気づいて、理解、支援し、環境を整え、得意なことを伸ばし、苦手なことを補う事で自己肯定感が高まることは、二次的な問題の予防にもなります。

 

2、注意欠如多動症(ADHD)について

 ADHDは、さまざまな刺激を同じ重みで感じ取るため優先順位を付け難いため、一つの行動を最後までやり遂げる事が難しい、忘れ物・なくし物が多いといった「不注意」や、行動のせわしなさと、同時に複数の事を思い付いたり感じたりする事をすぐに行動に移さずにはいられない「多動性」と「衝動性」といった症状があります。そのため誰かを傷つけるつもりはないのに、不意にぶつかるなどのトラブルに発展してしまうこともあります。

 ADHDの原因は、一卵性双胎の遺伝性が60-80%と報告されている事などから、生来の素因と環境の相互作用によると考えられており、親の育て方や本人の努力不足ではありません。

 ADHDの併発症は反抗挑戦性障害や素行障害、不安障害やうつ状態、自閉スペクトラム症、チック症などです。

 ADHDの対応と治療は、環境調整が重要で、ペアレントトレーニング、ソーシャルスキルトレーニングなどの心理社会的治療と中核症状に対する薬物療法があります。薬物療法は、医師の診断のもと副作用に留意しながら定期的に通院する事が必要です。

 ペアレントトレーニングでは、できて当たり前と思われるような事でも、好ましい行動に対して、行動し始めたら直ちに、その子にあった肯定的な注目をすることが大切です。

 

3、発達障害と愛着障害について

 発達障害の子は、特定の人との情緒的な絆を結びにくいことから、愛着障害との関係性について報告されています。

 愛着障害の特徴は、「注意ひき」といわれるような自分が注目されるための執拗な愛情欲求行動や、不適切な行動を指摘されても頑として認めない自己防衛や自己正当化、自己評価の低さと瞬間的にでも他者を否定して自分を優位にする自己高揚があるようです。愛着は、ネガティブな感情を誰かが大丈夫だと守ってくれる安全基地、ポジティブな気持ちを生じさせてくれる安心基地から形成され、さらに探索基地が形成されると探索行動を表してくるようです。学習を含む未知の物事は、愛着が形成されている場合には好奇心の対象となりますが、そうでない場合は警戒や不安の対象となるため、学習どころではない状況となってしまいます。

 発達障害では特にASDの場合、自分や他者の感情認知が苦手なため、自分の気持ちをわかってもらえたという実感やネガティブな感情の時に他者が気づいて見守ってくれる事を分かりにくいため、愛着の形成不全をきたす可能性があるようです。愛着を形成することやそれを修復することは、変化が大きいこれからの社会を生きる全ての子どもにとって大切なことだと思います。

 

4、おわりに

 発達障害の子の治療目標は、「自分は自分で良い」と思えるように、そして時に誰かに助けを求められるようになることだと考えます。

 発達障害の子もどの子も全く同じ子は一人もいません。一人一人好きな事や強みと言われる事と嫌いな事や苦手な事もありますが、周りの大人が子どもたち一人一人を見つめ、できるようになるまでは見守り、励まして時間を共有し、大人がして見せる事、一緒にやる事も大切だと考えます。

 

<参考文献>

  1. 上林靖子監修、発達障害のペアレントトレーニング実践マニュアル:中央法規出版(2009)
  2. 岡田尊司、愛着崩壊:角川学芸出版(2012)
  3. 高橋三郎他(訳)、DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル:医学書院(2014)
  4. 滝川一廣、子どものための精神医学:医学書院(2017)
  5. 日本小児心身医学会(編):初学者のための小児心身医学テキスト:南光堂(2018)
  6. 岡明監修、ADHDと多動性障害:日本小児医事出版社(2019)
  7. 米澤好史、愛着障害は何歳からでも必ず修復できる:合同出版(2022)