区民公開講座 「家族信託」で万全の老後と相続に備える!~認知症でも困らないために家族で取り組む最先端の財産管理と相続対策~

2023年10月14日(土) 15時00分~
江東区医師会館 4F 講堂

区民公開講座

「家族信託」で万全の老後と相続に備える!

~認知症でも困らないために家族で取り組む最先端の財産管理と相続対策~

宮田総合法務事務所 司法書士
宮田 浩志

 

1.家族信託とは

 「家族信託」とは、超高齢社会における最先端の財産管理の仕組みです。

 例えば自宅やアパート、現預金を持っている父親が、元気なうちに長男との間で、生涯にわたる財産の管理と処分の権限を渡す信託契約を締結します。父親は財産を託す立場(委託者)であり、また管理を任せた財産の実質的な持ち主(受益者)でもありますので、実際は父親が従来通り財産を持ち続けることになります。その一方で、その財産(信託財産)は、財産を管理する立場(受託者)となった長男が信託契約により与えられた権限に基づき堂々と管理や処分ができますので、信託契約後に父親の判断能力が低下・喪失しても、“資産凍結”を防ぎ、信託財産の管理・処分は盤石となります。

  また、家族信託は、親の老後の財産管理を万全にするだけではなく、さらに親が亡くなった後は、円満円滑に財産を次世代に承継させる機能(遺言代用機能)もありますので、「安心の老後」と「円満円滑な資産承継」の2つの希望を一度に実現できる画期的な仕組みとして大変注目をされています。

 

【家族信託のイメージ図 ↓】

 

 2.家族信託の2つの大きなメリット

 家族信託の1つ目の大きなメリットは、後述する成年後見制度の利用に伴う負担と比べ、軽負担で柔軟な財産管理が実現できる点です。

 2つ目の大きなメリットは、何段階にもわたる資産承継先の指定ができる点です。たとえば、老夫婦の場合、夫が先に亡くなった場合に備え、遺言で妻や障害のある子に財産を遺すケースが多いです。しかし、実際に遺産を引き継いだ妻や障害のある子に財産の管理能力が無ければ、受け継いだ財産を管理・消費するためには、後見人を就けなければなりません。家族信託なら、夫の生前の財産管理から始まり、夫亡き後の妻や子のための財産管理の仕組みごと残してあげられます。この点において、単に財産を渡すだけの「遺言」よりも、遺される側にとって安心できる財産の遺し方・渡し方ができるといえます。

 

 

 3.家族信託と成年後見制度との比較・使い分け

   判断能力が著しく低下した方の財産と権利を守るための仕組みとして「成年後見制度」があります。成年後見制度には、“セーフティネット”(社会保障制度)という制度趣旨に起因する3つの負担や制約がありますので、それを理解した上で、家族信託との使い分けをすることが重要です。

   まず1つ目は、「事務的負担」です。後見人は、使途不明金が生じないように厳格な帳簿作成や高額な領収書の保管が求められるとともに、家庭裁判所又は後見監督人に対し、定期的に財産目録や収支の状況を報告しなければなりません。仕事や子育てに忙殺される子世代が後見人になると、これらの事務が大きな負担となり、本来は親に寄り添うべき時間を割くことができないという本末転倒な事態になりかねません。

   2つ目は、「経済的負担」です。家族が後見人になる場合、被後見人本人の金融資産が多いと、司法書士・弁護士等の後見監督人が就くことが多いです。後見監督人に対しては、家庭裁判所が決定する月額金1~2万円程度の後見監督人報酬を本人が死亡するまで、本人の資産から支払わなければなりません。その一方で、諸事情により司法書士・弁護士等の専門職が後見人に就任する場合には、月額金2~6万円程度の後見人報酬が生涯発生し続けます。つまり、後見制度を利用すると、本人の資産から毎年数十万円が目減りしていくことになります。後見制度を利用してから本人が亡くなるまで、累積的な経済的負担総額の増大リスクについて、家族内で覚悟しておくことが必要です。

   3つ目は、「財産の運用・処分上の制約」です。後見人は、常に本人にとってメリットがある行動を求められます。後見人は、本人が元気な時に望んでいたことであっても、本人に直接的なメリットが無い財産の処分行為については、原則することができません。例えば、介護資金捻出のためや古家の維持コストが過大という合理的理由があれば不動産を売却できます。ただし、その売却代金の一部を賃貸マンションや投資信託等への購入に充てるなどの積極的な投資運用や相続税対策に繋がる行為はできません。

 このように、成年後見制度の負担や制約を踏まえたとき、成年後見制度に代わる財産管理の手段として「家族信託」が非常に有効な施策となりえます。

 

 

 4.本当に大切なこと

   相続は、親の長い老後を支えきったその先にあります。遺言を作ることももちろん大切ですが、まずは、親の老後をどう乗り切るのか、そのために取り得る方策(選択肢)をきちんと把握し、検討することが重要です。家族信託は、あくまでその選択肢の1つですので、家族信託こそがベター・ベストな選択肢とは限りません。

 最も大切なことは、親側から「家族会議」を招集し、親世代と子世代のそれぞれの想いや希望を話合い、情報共有することです。「家族会議」のプロセスを踏むことで、安心の老後とその先の円満円滑な相続の実現を目指していただきたいです。

 

【プロフィール】

 宮田浩志(みやた・ひろし) 司法書士・行政書士

 宮田総合法務事務所代表。

 後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・任意後見等の仕組みを活用した「認知症による資産凍結対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

 特に家族信託のコンサルティング分野では先駆的な存在で、日本屈指の相談・組成実績を持ち、全国でのセミナー講師、新聞・雑誌の取材・寄稿も多数。

 著書に『図解 いちばん親切な家族信託の本』(ナツメ社、2021 年)、『改訂新版 相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社、2020 年)、『図解 2時間でわかる!はじめての家族信託』(クロスメディア・パブリッシング、2018 年)がある。

 ≪ Web サイト ≫

 宮田総合法務事務所 https://legalservice.jp/

 個人信託・家族信託研究所 https://www.trust-labo.jp/

 一般社団法人家族信託普及協会 https://kazokushintaku.org/