区民公開講座 「知っておきたい痒~い虫達-トコジラミ・アタマジラミ・疥癬―」
2024年9月7日(土) 15時00分~
江東区医師会館 4F 講堂
区民公開講座
「知っておきたい痒~い虫達-トコジラミ・アタマジラミ・疥癬―」
東京都豊島区池袋保健所
矢口 昇
1.はじめに
2015年にトコジラミとアタマジラミについて、講演と会報「さざんか35号」に内容を掲載させていただきました。今回、「トコジラミ被害の最新情報と対策」及び区民公開講座で「知っておきたい痒~い虫達 トコジラミ・アタマジラミ・疥癬」として、被害状況や対策の話をしましたので概略を報告します。
先ず、トコジラミですが、医療機関や介護施設への影響が増加しています。外来患者の診療時や訪問診療時には、診療科目に関係なく注意する必要があります。被害が発生し、駆除業者に依頼しますと、かなり高額ですが、家庭や施設によっては簡単に、しかも安価に(100分の一の費用)駆除可能となりました。「3.対策」に内容を掲載しましたのでご参照ください。
アタマジラミでは、子どもたちの間で蔓延しています。東京都集計の都内保健所への施設別相談件数で、保育園が60.1%を占め、相談対象年齢は0歳~ 11歳が99.7%を占めています。中学生以上になると相談は激減することがわかります。
疥癬ですが、保健所への疥癬相談は少ないものの、疥癬患者は、年間8~ 15万人と予想されており、高齢者福祉施設、病院などでも集団感染がみられます。疥癬は、静かに流行っていると言えるでしょう。
2.状況について
①トコジラミの状況
トコジラミの被害を全国的にみれば、訪日外国人が利用する宿泊施設を中心に被害がみられます。訪れるところであれば暑さ寒さ、高低差、地域に関係がなく、沖縄から北海道まで被害があります。東京から1,000㎞離れた島でも、2,000m級のアルプス山小屋からも相談がきます。外国人の出稼ぎ先となった遠洋漁業の船内までトコジラミ駆除を行った業者がいます。このように、わが国のトコジラミ被害は、訪日外国人と関係が深いということがわかります。コロナ禍では、訪日外国人の激減とともに、宿泊施設の被害は減少しました。しかし、都市部では大幅な減少がみられませんでした。これは、駆除が進まない人たちからの被害拡大が原因です。特に医療や介護・福祉関係者からの相談は、むしろ増えていると言えます。コロナ禍後は訪日外国人が急増し、2023年の被害は東京都の保健所に寄せられた相談件数及び、駆除業者が135社以上加盟する東京都ペストコントロール協会の駆除相談件数は過去最高となりました。
②アタマジラミの状況
コロナ禍では子供たちの接触は減少し、被害も激減したと考えられます。しかし、表立って公表されていませんが、ある有名学園の小学校で100人もの子供たちにアタマジラミ寄生があったことが学校医から報告されています。この学園は他の区から通う児童も多く、当区だけの問題ではないことがわかります。アタマジラミは髪と髪の接触やクシなどの共有で感染しますが、「不潔が原因だ」として、仲の良い子供同士を引き離す保護者もみられます。正しい知識を定期的に発信する必要があります。
③疥癬の状況
疥癬ですが様々な問題があります。例えば、通常疥癬と診断されて処方された塗り薬ですが、独居高齢者が首から下の体に適切に塗れているとは限りません。独居認知症者・知的障碍者・身体障碍者もそうです。更に痒いカ所だけに塗る方が意外と多くみかけます。疥癬に不適切なステロイド剤を多用する人がいます。医師が適切に治療や指導をしていても、患者の生活や行動まではわかりません。介護施設等では、マニュアルがあっても混乱する例がみられます。
3.対策
①トコジラミ対策の朗報:
近年のトコジラミ被害は、一般に多く市販されているピレスロイド系殺虫剤では駆除ができないスーパートコジラミによる被害であり、使用すると拡散して被害が悪化します。有効なのは、成分がカーバメイト系かメトキサジアゾン、プロが使う有機リン系殺虫剤です。しかし、沖縄に被害が多くみられるネッタイトコジラミは、何れの殺虫剤でも効果がありません。ですが朗報です。近年わが国で、新成分のテネベナールが開発されました。2023年には同成分の「くん煙剤」が一缶3千円程度で発売され、業者による駆除費用が30万円の部屋であっても、簡単に3千円でできるようになりました。当方で被害宅25件に本剤を指導し、スーパートコジラミの駆除が全て完了しています。電話で指導した他区の相談者ですが、「劇的効果で駆除ができた」と、昨日、当保健所までお礼に来ました!駆除見積もりが90万円と言われた方からも一万円でできたとお礼が来ました。私は、本品メーカーの販売方法が気に入りませんが、人助けを優先します。品名は「ゼロノナイトG」という製品です。
②アタマジラミ対策:
クシや帽子等の共用を避け、髪の長い子は髪を束ねることや、頭髪をよく洗うことで被害の蔓延を阻止することができます。駆除を容易にするコツとして、髪のブラッシングを良く行い、細かいクシが抵抗なくスムーズに梳くことができれば駆除がはかどります。駆除薬を使用しても卵(抜殻を含む)は残りますので、駆除完了の判断をするためにも取り除くことが重要です。
なお、スミスリン剤に付属されていますクシは、斜めにして梳かないと卵(抜殻含む)の除去率が低いので注意・啓発が必要です。
③疥癬対策:
介護施設に限らず、病院でも疥癬が集団発生すると混乱する例がみられます。同じ系列の施設であっても、各施設にあったマニュアルが必要です。各スタッフの認識が同じでなければ、混乱や被害拡大につながることがあります。あわせて通常疥癬と角化型疥癬が混同されないよう基本知識の普及が必要です。病院や介護施設等の原因不明の集団感染では、過去に遡り、移動した方や亡くなられた方も視野に入れる必要があります。マニュアルには施設の事務員や作業員・送迎者(運転手)の視点も含めたマニュアル作りが必要と考えます。
4.おわりに
トコジラミ・アタマジラミ・疥癬に共通する間違い・勘違い
さて、今回の区民講座ではトコジラミ・アタマジラミ・疥癬の話をさせていただきましたが、この三種の虫達には共通していることがあります。それは、いずれも人が対応を間違う・勘違いすることが多いという点です。例えば、トコジラミ刺症被害をダニ被害と勘違いして対応する。更に、不潔にしているから発生すると思い込む人も多く、アタマジラミでもみられます。アタマジラミ予防として、スミスリン殺虫剤シャンプーで毎日洗う家庭もあります。疥癬では、集団発生した特別養護老人ホームのエレベーターに「疥癬が発生しています!面会後は石鹸で手洗いをしてください。帰宅後は入浴してください。イソジン液でうがいをしてください」と張り紙がしてありました。施設の事務員・作業員達にとって、疥癬は空気感染するがごとく考える方もみられます。正しい知識の普及にご尽力のほどお願い申し上げます。