江東区医師会 区民公開講座 子どもの心身の発達に本当に大切な睡眠
2025年7月5日(土) 15時00分~
江東区医師会館 4F 講堂
区民公開講座
子どもの心身の発達に本当に大切な睡眠
昌仁醫修会 瀬川記念小児神経学クリニック
院長 星野 恭子
💤 子どもの心と発達に深く関わる「睡眠」の重要性
東京お茶の水 旧瀬川小児神経学クリニック院長 瀬川昌也先生の教えを受けた筆者は、子ども達の情緒や集中力、チック等の神経の症状が「睡眠の改善」で劇的に良くなる様子を目の当たりにし、本当に驚き、睡眠の啓発活動を始めました(後述)。睡眠は子どもの健康を守る最も確実な治療法です。お薬を使って便秘や不機嫌を治すより、まずは規則正しい睡眠と食事を整えて治せるものは治しましょう。
ヒトは昼行性の哺乳類であり、生後3〜4か月までに昼夜のリズムが形成されます。レム睡眠とノンレム睡眠は脳幹という脳の中心部の深い場所により制御され、徐々に変化し、成人と同じリズムを形成します。睡眠覚醒リズムは、脳の発達に影響するアミン系神経・コリン系神経により制御され、自律神経系にも影響します。発達により、体温・心拍・排泄・ホルモン分泌などが昼行性のリズムに変化します。
🌞乳幼児期の睡眠
1歳頃には昼寝が1回になり、5-6歳で昼寝はしなくなります。睡眠の質は脳幹や自律神経の発達と密接に関係しており、昼間の活動が睡眠の質を決定すると考えられます。総睡眠時間は、新生児は16-17時間、睡眠時間は減り生後4か月14-16時間うち夜に8-9時間となり、昼間の睡眠は「昼寝」と呼べるようになります。授乳の回数も減り、昼間の食事が増えます。3-5歳は10-13時間、6-13歳は9-11時間、14-17歳は8-10時間。学童期には9-11時間が推奨されます。
1歳ごろには夜中の覚醒は1回程度に減るという報告があり、1歳半健診での頻回の夜間授乳を相談された場合は減らした方がよいでしょう。乳幼児期の中途覚醒は、夜間の頻回授乳、朝の起床が遅い、昼寝が長さ、鉄欠乏などが原因となることが多いです。添い寝をしても、自分で眠れるsleep aids(指しゃぶり、おしゃぶりなど)を使ってself-soothe(親の力を借りず、自分自身で睡眠にもっていく)するように仕向けることが重要になります。また、フェリチン値を確認し、鉄剤の投与が有効です。乳幼児期の睡眠の問題は、神経発達症の可能性も否定できず、早期の対応が必要になります。
幼児期のお昼寝は、できれば、15時までに切り上げることが望ましいです。保育園での昼寝が夜の入眠を妨げる場合もあり、保育指針では「子どもの発達に任せる」方針が取られています。 昼寝の必要性は年齢と発達により変化しますが、夜の睡眠が整っていることが重要です。
🏫学校保健と睡眠教育
学童期の睡眠の問題は深刻で、2022年から始まった「子供睡眠健診プロジェクト」の結果では、小学校1年生から高校3年までのほとんどの学童が、推奨される睡眠時間に達していませんでした。さて、筆者は、学童の睡眠の問題を3つに分けて考えています。
1つ目は「寝ようと思っていない」タイプです。メディア依存、過度な学習・運動、通学時間などが睡眠不足の要因です。対策としては、睡眠教育の充実が求められ、子ども自身が「なぜ寝ようとしないのか」「なぜ寝なければいけないのか」という「睡眠の重要性」を理解する機会が必要です。ゲーム障害は、思春期が好発年齢でオンラインゲームや課金などでやめられなくなる子どもさんもいます。海外のデータで、ゲーム障害では脳の考える力を司る前頭葉が萎縮することを伝え、「自分は大事な一人なんだ」という自尊心を重要視しています。私は、思春期の子どもは「誰かに大切にされたい」と願っており、睡眠リズムの改善は自尊心の回復と密接に関係すると考えています。保護者や医療者が寄り添い、子ども自身が「自分を大切にしたい」と思える支援が重要です。
2つ目のタイプは「寝ようと思っていても眠れない」場合です。日本では、神経発達症の入眠困難にはメラトニン製剤が保険診療で使用することができるようになりました。副作用もなく使いやすいお薬だと思います。
3つ目は「早く寝ても起きられない」場合です。この問題が最も大変で、睡眠の質が悪い、または起立性調節障害が入ります。睡眠の質の低下の原因として、小児の睡眠時無呼吸症候群が代表的で、いびきがひどい子どもさんには耳鼻科的な介入が必要になります。起立性調節障害は中学生に多く、身体の発達に伴う血圧の適応障害と言えますが、長期的な支援が必要です。
🌐社会への啓発活動について
2001年に「子どもの早起きをすすめる会」が発足し、2023年には「社会と共に子どもの睡眠を守る会」として再出発。文科省の支援もあり、「早寝早起き朝ごはん」運動が全国に広がりました。今まで600回位の講演を行ってきましたが、せっかく睡眠の重要性が広がったにも関わらず、昨今のデジタル機器は大きな壁となっています。中学生の多くがスマホを持ち、私たちもスマホを日常生活に使うようになった今、まさにメディアリテラシーの啓発が最重要な課題と考えています。私は、子ども達に睡眠の重要性を伝える活動は、未来への贈り物だと思っています。
