江東区医師会 区民公開講座 睡眠で困った時の対処法―高齢者を中心に―
2026年5月16日(土) 15時00分~
江東区医師会館 4F 講堂
区民公開講座
睡眠で困った時の対処法
ー高齢者を中心にー
木場メンタルクリニック
院長 木村 通宏
私は開業する前に認知症の専門外来や病棟で計7年ほど勤務歴があり、高齢者の精神医療において睡眠の問題の重要性を痛感していたため今回この様なテーマでお話することにしました。
睡眠に問題がある場合には、まず現在の状態を評価して検討する必要があります。
主観的な評価として睡眠表があります。毎日つける事により、全体の傾向が把握できます。
睡眠の客観的な評価としては、睡眠ポリグラフ検査やアクチグラフィが行われています。
睡眠を障害する様々な疾患があります。
最も頻度が多い不眠についてです。タイプとしては、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難があり、不眠により日中の生活に支障をきたした場合に不眠症と診断されます。
過眠とは不眠と逆に眠りすぎる状態です。ナルコレプシーは睡眠発作と、情動脱力発作と、入眠時幻覚が特徴の病気です。日中の耐え難い眠気が続く特発性過眠症や、日中の強い眠気が続く時期と、まったく症状がない時期を繰り返す反復性過眠症という稀な疾患があります。また非定型うつ病と呼ばれるものがあり、悪化すると過眠や過食が出現します。
睡眠覚醒リズム障害とは、睡眠の周期の問題です。時差症候群や、夜勤のある方の交代勤務障害や、極端な遅寝遅起きとなる睡眠覚醒相後退症候群などがあります。
むずむず脚症候群とは、夜間に寝ようとすると、下肢の異常な感覚が出現するものです。入眠困難で気分が悪くて、部屋の中を歩き回ったりします。原因不明ですが、鉄の欠乏や腎臓病が原因となる事もあります。周期性四肢運動障害は、主に下肢の痙攣が周期的に起きるもので、不眠になり日中の眠気や集中力の低下を伴うことがあります。
睡眠随伴症の睡眠時遊行症とは、夢遊病の事です。睡眠中に起き上がるだけの場合から、複雑な行動をする場合もあります。似たような病態で睡眠時驚愕症があります。叫び声が特徴的で、多量に発汗することがあります。レム関連行動障害は、レム睡眠中に大声を出したり、体を動かしたりするものです。配偶者が殴打されてけがをする事があります。パーキンソン病やレビー小体型認知症に伴う事が多いですが、この症状だけが続く人もいます。
不眠に効果があるとされる市販薬ではジフェンヒドラミンや、漢方薬(抑肝散、桂枝加竜骨牡蛎等など)やサプリメント(セントジョーンズワード、カモミールなど)があります。
処方薬としては、バルビツール酸系は強力な催眠作用を持つのですが、依存性や呼吸を抑制するなどの副作用も強く現在は殆ど使用されておりません。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は多用されている睡眠薬です。中時間作用型のサイレースは海外で悪用されたため、アメリカなど持ち込みが禁止されています。服用されている方は海外旅行の際に注意してください。
ベンゾジアゼピン系薬剤の依存性や筋弛緩作用等の副作用から非ベンゾジアゼピンという名称の別系統の薬剤が開発され、ベンゾジアゼピン系のトリアゾラムに似た超短時間のゾルピデムが多用されるようになります。この薬剤は、耐性の問題があるようです。ゾピクロンは苦みの副作用があります。
新しいタイプの睡眠薬のオレキシン受容体拮抗剤とは覚醒を維持するオレキシンを阻害することで、睡眠を取りやすくする作用があります。安全性が高く、依存性も低いため、推奨されています。副作用としては、持越し効果や、稀に悪夢を頻回に見る方がいます。
メラトニンという睡眠のリズムを調節しているホルモンがあります。メラトニンそのものは日本では小児の不眠症にしか適応がありませんが、アメリカではサプリメントの扱いになっています。ラメルテオンは脳内のメラトニンが反応する部位を刺激して効果が発現する薬剤です。副作用はまれですが、効果は非常に弱いです。
ここから高齢者の話になります。不眠の原因としては、まず加齢自体が中途覚醒や熟眠困難のリスクになります。次に、骨折や前立腺肥大といった身体疾患が睡眠を妨げる事が多くなります。また不眠を訴えて来院された方がうつ病などの精神疾患であることは珍しくありません。さらに騒音なども影響することがあります。
私は高齢者の睡眠を考える上でせん妄という症状が重要だと思います。様々な原因で生じる、短期間のうちに変動する意識障害に、認知機能障害や精神症状を伴う症候群のことです。原因としては認知症や、身体の病気や、環境や、薬剤などが原因となることがあります。
認知症疾患の睡眠障害治療ですが、まずは環境の調整です。日中の日光浴や、夜間の光や騒音を減らす事です。行動的な介入としては、日中の活動量を増やすことです。デイサービスの参加や散歩などを勧めてください。感覚的刺激は、アロマテラピーやマッサージなどです。リラクゼーションは柔軟体操や入浴など、本人がリラックスできる状態を作りましょう。これらの対処で改善しない場合は、薬物療法となります。
最後に睡眠障害の診断治療ガイドライン研究会の睡眠障害対処12の指針が参考になりますので記載します。
1)睡眠時間はひとそれぞれ、日中の眠気で困らなければ十分。
2)刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法。
3)眠くなってから床に就く。就床時刻にこだわりすぎない。
4)同じ時刻に毎日起床。
5)光の利用でよい睡眠。
6)規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣。
7)昼寝するなら、遅くとも15時前の20~30分。
8)眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに。
9)睡眠中の激しいいびき・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意。
10)十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に。
11)睡眠薬代わりの寝酒は不眠の元。
12)睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全。
