高齢者の足(下肢)の痛みについて
区民公開講座 平成25年7月27日のまとめ
城東社会保険病院
院長 中馬 敦
高齢者では、骨、関節の老化や変形により、下肢にさまざまな痛みの出ることが少なくありません。これらの痛みの原因、病気を理解し、治療及び日常生活の工夫をしていく必要があります。今回は坐骨神経の痛み、股関節の痛み、膝の痛みについてお話しします。
坐骨神経痛はおしりから下肢の後ろ側全体に広がる痛みです。坐骨神経痛の原因の大半は腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症等の腰の病気です。腰椎椎間板ヘルニアは腰椎の椎間板が背中側へ飛び出して坐骨神経につながる神経根を圧迫して腰痛、坐骨神経痛、下肢のしびれなどの症状がみられます。腰部脊柱管狭窄症は腰椎の脊柱管が狭くなり、脊柱管内にある神経根を圧迫し、坐骨神経痛、下肢のしびれ、間欠性跛行(はこう)(歩行していて下肢の痛みしびれが強くなり休み休みでないと歩けないこと)などの症状がみられます。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症の治療には保存療法と手術療法があります。保存療法には消炎鎮痛薬等を使用する薬物療法、コルセット装着、腰椎牽引、温熱療法、運動療法等の理学療法、神経ブロックがあります。日常生活では腰に負担をかけないよう、中腰で重いものを持たない、外出時には杖やシルバーカーを使うなどの工夫があります。保存療法で症状が改善しない場合やしびれや麻痺などの神経の障害が進行している場合には手術療法を検討します。手術療法は、腰椎後方より骨の一部を切除し神経の除圧を行う方法が多く、腰椎不安定性のある場合には骨移植、金属による固定も併用します。
股関節の痛みは股関節の前だけでなく、おしりや大腿部にもみられます。原因の大半は変形性股関節症です。股関節は骨盤のくぼみ(臼蓋)に大腿骨頭がはまっている構造で、すき間には関節軟骨があります。変形性股関節症は股関節の軟骨が徐々にすり減っていき、炎症が起こり痛み症状がみられます。進行すると関節軟骨がさらにすり減り、最後は軟骨が消失し骨の変形もみられ、症状は痛みが強くなり、筋力が低下し、左右の足の長さに差がでて歩行障害もみられます。変形性股関節症の治療には保存療法と手術療法があります。保存療法には消炎鎮痛薬を使用する薬物療法、関節内注射、運動療法があります。日常生活では減量により体重の股関節にかかる負担を減らす(6ヵ月で体重の約5%減を目標)、テーブルとイス、ベッドの洋式生活を取り入れる、外出時には杖やシルバーカーを使うなどの工夫があります。保存療法で症状が改善しない、非常に強い痛みがある、日常生活が不自由な場合には手術療法を検討します。手術療法はいくつかありますが、60歳以上の高齢者では大半で人工股関節置換術を行います。人工股関節置換術は、基本的には60歳以上のかなり変形の進んだ例に行います。入院期間は3~7週間程度です。手術後の痛みの改善効果はかなり高く、生活の質の向上がみられます。ただし静脈血栓塞栓症、感染、脱臼などの合併症に注意する必要があります。変形性股関節症以外の股関節の痛みの原因となるものは、外傷・骨折、大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、化膿性股関節炎などがあります。
膝の痛みの原因の大半は変形性膝関節症です。膝関節は上に大腿骨、下に脛骨、前に膝蓋骨があるという構造で、そのすき間に関節軟骨、半月板があります。変形性膝関節症は膝関節の軟骨、半月板が徐々にすり減っていき、炎症が起こり痛みがみられます。最初は立ち上がる時や動き始めに痛む程度ですが、進行すると関節軟骨、半月板がさらにすり減り、正座ができない、歩行がつらい、安静時や夜寝ていても痛むといった症状がみられます。変形性膝関節症の治療には保存療法と手術療法があります。保存療法には消炎鎮痛薬を使用する薬物療法、関節内注射、運動療法があります。変形性股関節症と同様に、日常生活では減量により体重の膝関節にかかる負担を減らす、洋式生活を取り入れる、外出時には杖やシルバーカーを使うなどの工夫があります。保存療法で症状が改善せず、非常に強い痛みがあり日常生活が不自由な場合には手術療法を検討します。60歳以上の高齢者に行う手術療法には、膝関節鏡視下手術、人工膝関節置換術があります。膝関節鏡視下手術は、膝関節周囲に2~3ヵ所の小切開を加えて行う体への負担の少ない手術で、変形の少ない例や半月板損傷の例に行います。入院期間は4日~2週間程度です。痛みの改善効果は個々の例で異なり、術後長期(5~10年以上)にわたり痛みが改善する例もあれば、術後6ヵ月~1年で痛みの再発する例もあります。人工膝関節置換術は、かなり変形の進んだ例に行います。入院期間は3~7週間程度です。手術後の痛みの改善効果はかなり高く、生活の質の向上がみられます。ただし静脈血栓塞栓症、感染、などの合併症に注意する必要があります。変形性膝関節症以外の膝の痛みの原因となるものは、外傷・骨折や靱帯損傷、関節リウマチ、痛風・偽痛風、化膿性膝関節炎などがあります。
以上お話ししましたが、足(下肢)が痛くなったらほうっておかず、近所の整形外科に受診することが大切です。医師の診察を受けて、痛みの原因は何か、どのような治療が必要か、日常生活の注意点などを教えていただき理解するとともに、自ら積極的に治療に参加することが重要です。