過活動膀胱 -診断と治療-
区民公開講座 平成26年11月22日のまとめ
荒木医院 院長
荒木 重人
これからの高齢化社会は骨粗鬆症、認知症、糖尿病などの生活習慣病からくる脳梗塞、心疾患、過活動膀胱のような排尿障害、更年期疾患などでQOLが低下することが予測されています。つまり超高齢化社会において「年齢に伴って低下するQOLとの戦い」が必然と言えます。
まず私たちの正常排尿とはどんな状態なのか以下に示します、1回の排尿量は250ml以上、1日の排尿量は1500ml以上、1回あたりの排尿時間は30秒以下、1日の排尿回数は7回未満、排尿間隔は3~4時間持つ、夜は排尿で起きない、このように言われています。さてこのような正常排尿に異常をきたした状態を下部尿路症状(LUTS:Lower urinary tract symptoms)と言います、ICSで定義された概念で、蓄尿時の異常、排尿時の異常、排尿後の異常などに定義されています。過活動膀胱はこのLUTSに包括され、「切迫性頻尿を主体とする症状症候群」ということになります。簡単に表現すると「我慢できない頻尿がある患者さん」ということになります。昨今の疫学調査で過活動膀胱患者さんは約810万人存在しますが、うち治療しているのは200万人程度と少なく、特に女性患者さんの受診が少ないと言われています。またその特徴として、主観的で、問診でしかわかりにくい側面があり、完治はしないが、しばしば良くなることがあり、放置するとQOLが著しく悪化し、抗コリン薬が良く効くなどが挙げられます。また過活動膀胱の最大の因子は加齢と言われています、したがって過活動膀胱は高齢化社会になるほど増加する疾患と言えます。
過活動膀胱の診断は診断マニュアルに沿ったアルゴリズムに基づきます、まず過活動膀胱症状質問票(OABSS)を使いスクリーニングを兼ねて十分な問診をいたします、次に検尿、採血、超音波、尿流測定、残尿測定など検査し、これらを総合的に判断して診断します、排尿日誌を患者さんに書いてもらうとより詳細な診断が可能となります。
LUTSの日常生活支障度が疫学調査で検討されていますが、男女とも夜間頻尿が最もQOLを障害し、特に男性で夜3回以上トイレ行くグループの生存率は低下すると報告されています。夜間頻尿の原因は内科的なものも少なくなく不眠、うつ、ムズムズ足症候群、繊維筋痛症、内服薬(医原性)、心不全、腎不全、肝不全、睡眠時無呼吸症候群、肥満、生活習慣病(高血圧など)などが挙げられます、また生活習慣が原因と思われるものとして、水分過剰摂取、運動不足、アルコール、カフェイン飲料、塩辛い食事などがあります、泌尿器科関連だと、過活動膀胱、前立腺肥大症、間質性膀胱炎、LOH症候群、EDなどがあります。夜間頻尿の治療として生活習慣指導は大切で、実際飲水指導などの生活習慣の是正で夜間頻尿が改善することがしばしば経験されます。
当院過活動膀胱患者さん94例(H26年1月~5月、追跡期間1ヵ月~7年8ヵ月)につき検討しました、男性51例、女性43例と男性が多い傾向にありました。男性の尿漏れは25%、女性は60%と尿漏れは女性に多い傾向でした、このことは男女の解剖学的差によるものと推測されます。男性51例中前立腺肥大の患者さんは40例(73%)と高率でした、このことは前立腺肥大症になると過活動膀胱を高率に合併していると言えます。また生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)を合併している患者さんは約80%と高率でした、つまり過活動膀胱は生活習慣病と深い関係があることを示唆しています。また合併症を持った高齢の患者さんが数多く認められ、さらにうつ、認知、不眠、多量の飲水などが過活動膀胱治療を複雑にしていました。
過活動膀胱の治療はなんといっても抗コリン薬(推奨グレードA)が中心となります、その有効率は70~80%と高率に上り、世代の新しい薬ほど良く効いて、副作用も少ないと言えます。一方効果の面でもその強さなどに若干の違いがあることが日本でのメタ解析で分かってきました、他方作用時間、副作用などを含めた使い心地に差があることがわかっています、当然薬物なので患者さんによる個人差も出ます、これらを考慮して色々試して使ってみることが効果的です。その他の治療として骨盤底筋体操はグレードAです、減量はグレードA、カフェイン・アルコールなどの適切な制限はグレードBなどです。内科的疾患も高率に合併していますので、同時並行で治療が必要となります。
まとめ:①超高齢化社会を迎えるため男女とも過活動膀胱は増加する。②中でも夜間頻尿が最もQOLを障害する。③抗コリン薬が大変良く効く。④過活動膀胱の治療に骨盤底筋体操が有効です。⑤生活習慣病(血管障害)との深い関係が示唆されています。最後に過活動膀胱を治してハツラツ人生を送りましょう。