子宮・卵巣の病気とその対応

区民公開講座 平成28年5月28日のまとめ

昭和大学江東豊洲病院 婦人科
野村 由紀子

① 子宮・卵巣の構造と機能
 子宮は下腹部に存在し、妊娠して赤ちゃん(胎児)を育てて産むための臓器です。子宮の壁は筋肉でできており、妊娠した際には胎児発育に合わせ伸びたり陣痛をおこすため収縮したりもします。上側(子宮体部)の内部は空洞になっていて、その内側には子宮内膜という膜が覆います。この内膜が次周期妊娠に備えて毎月剥がれて生まれ変わるときに出る出血が月経(生理)です。卵巣は子宮の左右に1個ずつあり、卵子を成熟させて排出(排卵)する、女性ホルモン(エストロゲン)を分泌して子宮内膜を厚くさせる、などの機能があります。50歳前後になると卵巣の機能は終了しますので、月経周期も終了します(閉経)。

② 子宮の病気
1. 子宮筋腫
  子宮筋層からできる良性腫瘍。成人女性の約3割に存在。多発することも多い。エストロゲンの影響で増大し、閉経後は縮小。まれに悪性化(0.5%以下)。
  症状:過多月経・貧血・月経困難・不正出血・腹満感・腰痛・排尿排便異常など。 
   検査:超音波検査・MRI検査など。
  治療:
   手術療法:最近は腹腔鏡下手術が多い。子宮全摘術が基本。子宮温存希望の方は筋腫核出
   のみとするが、妊娠分娩時は帝王切開が必要となる可能性や、再発の可能性あり。
   薬物療法:鎮痛剤・漢方・ホルモン剤(対症療法または一時的)。
   その他:子宮動脈塞栓術・集束超音波療法。
2. 子宮ポリープ:子宮の粘膜からできる粘膜の腫瘍。増大時や症状ある時は摘出。
  子宮頸管ポリープ:子宮頸部から発生。症状:不正性器出血。
             検査:視診で可能。治療:直視下に摘出(通常診察時に可能)。
  子宮内膜ポリープ:子宮内膜から発生。症状:不正性器出血・過多月経。
             検査:超音波検査・子宮鏡検査。治療:子宮鏡下摘出術。
3. 子宮頸がん・子宮頸部異形成
  ヒトパピローマウィルス(HPV)感染が原因といわれる。多くの女性が生涯のうちに感染を経験するが、ほとんどは免疫機構により自然に排除される。ごく一部の方は持続感染によって正常から子宮頸部異形成(前がん)を経て子宮頸がんになる。
  症状:初期は無症状。進行すると不正性器出血、下腹部痛など。
  検査:子宮頸部細胞診(子宮がん検診)→異常あれば組織診・コルポスコピーなど。
  治療:前がんから初期までは子宮頸部円錐切除術で済むが、進行すると子宮全摘術・リンパ節
  摘出術・放射線療法・抗がん剤などが必要となることもある。
4. 子宮体がん
   子宮内膜から発生するがん。好発年齢は40代後半から60代だが近年は若年性も増加。原因にエストロゲンが関与する場合が多い。危険因子:肥満・高血圧・糖尿病など。
   症状:不正性器出血
   検査:子宮内膜細胞診・超音波検査・MRIなど
   治療:子宮全摘術・リンパ節摘出術・抗がん剤など。
5. 子宮脱(骨盤臓器脱)
   骨盤内臓器を支える筋肉(骨盤底筋)などがゆるんで、膀胱・子宮・直腸などが腟から脱出する状態。原因 加齢・多産・腹圧・肥満 など。
   症状:下垂感・脱出感に加えて、膀胱瘤:排尿障害(残尿・頻尿・尿漏れ)、子宮脱では不正出血、直腸瘤では便秘・残便感など。
   治療:骨盤底筋体操・薬物療法(漢方・ホルモン剤)・ペッサリー(腟内リング)・手術療法(近年は腹腔鏡下メッシュ手術など)

③ 卵巣の病気
1. 良性卵巣腫瘍
   卵巣内の組織からできる腫瘍。多彩な種類がある。液体を産生する腫瘍は「卵巣嚢腫」。
  症状:増大すると腹満感、下腹部痛など。しかしかなり大きくても無症状のことも多い。
  続発性変化:①破裂 ②茎捻転 ③がん化。 ①・②の場合は緊急手術。
  検査:超音波検査・MRI検査など。ただし摘出しないと良悪性の確定診断はできない。
  治療:手術療法(最近は腹腔鏡下手術が多い) 卵巣ごと、または腫瘍のみ摘出。
2. 卵巣がん
  症状が出にくいため、診断時には進行していることが多い。
  症状:腹満感・腫瘤感・下腹部痛・排尿排便障害 など。
  検査:超音波検査・MRI検査 など
  治療:手術療法(子宮・卵巣・リンパ節などを摘出)・抗がん剤 など。

④ 子宮内膜症
  子宮内膜に似た組織が、本来の部位以外の場所に発生。明らかな原因は不明。
  月経(=子宮内膜が剥がれる出血)の時に内膜症がある場所でも出血が起きる。
  進行すると骨盤内に癒着をきたす。
   発生場所によって名称がある。子宮筋層→子宮腺筋症、卵巣→チョコレート嚢腫、骨盤腹膜→ブルーベリースポットなど。
   症状:月経困難症・下腹部痛・排便時痛・性交時痛(月経時以外も)。
     不妊症(炎症による排卵・受精・着床障害、卵管癒着などによる)。
     子宮腺筋症では、子宮筋腫と同様の症状(過多月経・貧血)・腫瘤感。
   検査:内診・超音波検査・MRI検査など
   治療:妊娠希望の方は、積極的な妊娠トライ。
     薬物療法:
     ① 対症療法(鎮痛剤・漢方)
     ② ホルモン療法 偽妊娠療法(低用量ピル)、プロゲステロン療法(ジエノゲスト)、偽閉経療法(GnRHアゴニスト)
     手術療法:腹腔鏡下手術が推奨されている。病巣摘出術・癒着剥離術

⑤ 最後に
  初期は無症状である子宮頸がんの早期発見のためにも、婦人科検診・子宮がん検診を定期的に受けましょう。また検診では発見しきれない疾患が隠れている場合もありますので、症状が強いときや症状が弱くても続くとき・繰り返すときはお近くの婦人科への受診をお勧めします。