加齢と眼科疾患

区民公開講座 平成28年6月18日のまとめ

昭和大学江東豊洲病院 眼科
准教授  岩渕 成祐

 今回江東区医師会区民公開講座にて「加齢と眼」というタイトルで、講演させていただきました。
 今回は、白内障、緑内障、加齢黄斑変性についてお話しいたしました。成人の中途失明者で一番多いのは緑内障、次に糖尿病網膜症、網膜色素変性、黄斑変性の順になっています。1
 白内障は80才になると100%罹患する病気で、世界中では失明原因の第一位になっております。原因は加齢が一番多く、先天性、内分泌性、薬剤性、外傷性があります。症状としてはかすむ、近視が進む、昼間まぶしいなどがあり、進行すると視力障害を来す病気です。水晶体は核と皮質に分かれており、核性白内障、皮質白内障に分類され、両方に濁りが来るタイプもあります。白内障の治療は現在手術が唯一のエビデンスで、白内障の点眼、内服は明らかなエビデンスがないのが現状です。手術は通常7分〜20分程度で終了し、痛みはほとんどありません。施設により日帰り、または入院で行っており、この両方に対応している施設もあります。白内障手術時に眼の中に移植する眼内レンズに現在単焦点、多少点レンズがあります。単焦点レンズはクリアな見え方をしますが、調節力がないためピント合わせをしたところ以外は眼鏡が必要になります。多焦点レンズは、人によっては遠くも近くも眼鏡なしで見えますが、夜間のグレアが出て、見え方のクリアさに関しては単焦点レンズに劣ります。多焦点レンズは先進医療の扱いで、眼内レンズ代は自費になります。手術の合併症としては駆出性出血眼内炎などの場合によっては高度の視力障害を残す重篤なものもあります。また、手術中に水晶体嚢が破れ、眼内レンズを縫い付ける事になると、1時間くらいかかることもあります。その他には手術後数ヶ月から数年して後発白内障を来すことがあり、これは水晶体後嚢の混濁で、YGAレーザーにより視力回復が可能です。

 次に緑内障ですが、こちらは自覚症状が末期まで出ずに、自覚症状が出てきた頃には進行した状態になっていることがあります。以前は緑内障は眼圧が高く、視野障害を来すといわれていましたが、現在では眼圧が正常でも緑内障になってくる事がわかっています。緑内障の分類では閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障があり、隅角が閉塞しているかどうかで分けられます。閉塞隅角緑内障は中年の遠視の女性に多く、急に緑内障発作を起こすことがあり、注意が必要です。治療は、点眼、レーザーですが、根本的には白内障手術となります。これは水晶体が白内障になり、厚さが増し、虹彩を後ろから圧迫し、隅角を閉塞するためで、その原因となる水晶体を薄い眼内レンズに変えることにより発作を起こさないようにします。一方開放隅角緑内障は、自覚症状が乏しく、いつの間にか進行してしまいますので、早期発見には検診が大切になります。検診で眼圧、眼底検査を行うことにより、早期発見早期治療につながります。眼圧が高い開放隅角緑内障に対し、眼圧が正常な正常眼圧緑内障という病気もあり、眼圧だけではスクリーニングができない事もあります。治療は点眼を主体として、点眼での眼圧が下がらず、視野欠損が進行していくと手術を行います。白内障と違い手術を行っても視野は回復せず、視野が悪化するのを防ぐ効果しかありません。緑内障では一度悪くなった視野は回復しないので、早期発見が重要になります。

 最後に加齢黄斑変性です。加齢黄斑変性は約10年前までは有効な治療法がありませんでしたが、ここ10年で飛躍的に治療が進んだ病気です。久山町スタディーによれば加齢黄斑変性は50才以上の日本人の0.87%にみられます。病気の本体は網膜の下の脈絡膜に新生血管ができ、それが網膜に浮腫や出血を起こすことにより視力低下を来します。原因は加齢によるとされていますが、リスクファクターとして喫煙があげられます。この病気も一度視力が低下してしまうと元には戻らないことが多い病気です。自覚症状はゆがみや視力低下です。前駆所見として、眼底に白斑がみられることがあり、これは検診によってわかります。亜鉛と抗酸化ビタミン(Vit C, E, A)により発生率を抑えることができ、有効な治療としては現在主にVEGF阻害薬の硝子体内注射が行われております。しかしその問題点として、加齢黄斑変性は再発しやすく、複数回にわたり注射の治療が必要で、その後も経過観察が必要になります。一回の薬代が約17万円と高額で、保険診療でも複数回投与しなければならない事を考えると、費用の面から治療を躊躇してしまう患者様もいます。喫煙をやめ、緑黄色野菜を多く取ることにより、加齢黄斑変性の発症リスクを減らせますので、そのような生活を心がけていただきたいと思います。

 1 中江 公裕ほか:厚生労働科学研究研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究 平成17年度 総括・分担研究報告書:263,2006(障害者手帳交付者の身体障害者診断・意見書の調査結果)より