バスケットボールにおけるケガとその治療

平成29年6月3日
順天堂東京江東高齢者医療センター
整形外科・スポーツ診療科 
先任准教授  金 勝乾

はじめに

筆者は現在Bリーグのサンロッカーズ渋谷のチームドクターをしており、また日本バスケットボール協会医科学委員会のメンバーとして日本代表チームのサポートを行っている。バスケットボール選手のケガの対応や健康管理を行ってきた経験から、今回は主にバスケットボールにおけるケガとその治療について述べる。

バスケットボールに多いケガ

サンロッカーズにおいて2007-2008年シーズンから2011-2012年シーズンまでの5年間にバスケットボールに関連した外傷・障害で1日以上練習または試合を休んだものをみると足関節・足のケガが最も多かった。障害内容としては筋腱損傷が最も多く、次いで靱帯損傷・捻挫であった。バスケットボール協会医科学委員会で救護を担当している大会の救護記録からの統計を見ると小学生では足関節が、高校生以上になると頭・顔のケガが最も多かった。膝のケガは高校生以上で靱帯損傷などの重篤な外傷が多くなっていた。

膝のケガ

1.前十字靱帯損傷
バスケットボールで踏み込んだ瞬間に膝を捻り受傷することが多い。その際に膝が腫れ、関節内に血液が溜まっていると前十字靱帯損傷である可能性が高い。順天堂大学練馬病院で中高生に行った前十字靱帯に対する手術は、競技種目別にみるとバスケットボールが最も多かった。診断は理学的所見から可能であるがMRIも有効である。治療は手術をして靱帯を再建することが必要になる。しかし靱帯が切れた状態であっても通常日常生活は問題なく行えるため、スポーツ活動を行わない場合は保存的治療を選択することもある。当院では通常、半腱様筋で再建を行い、術後3ヵ月でランニングを開始、術後6ヵ月で復帰を許可している。

2.半月損傷
半月は主に荷重の分散の役割をしている。診断にはMRIが最も有効である。半月は組織の血流が乏しく、手術で切除になることも多い。血流のある部分では縫合処置を行う。切除の場合は術後1ヵ月から運動を開始するが、縫合を行った場合は術後3ヵ月以上を要することが多い。しかし近年は切除のデメリットを考え積極的に縫合処置を行う傾向にある。

3.離断性骨軟骨炎
関節内の軟骨下骨が剥離するもの。10代の男子に多い。スポーツで関節面にかかる剪断力が原因と考えられている。初期のものでは安静のみで改善するが病巣が遊離してきた場合は手術が必要になる。通常は遊離体を固定することで治癒するが、欠損がある場合は骨軟骨移植等が必要になることもある。

足・足首のケガ

1.足関節靱帯損傷(捻挫)
バスケットボールでは最も頻回に遭遇するケガと言える。軽度のものであれば自然治癒するので問題はないが、重度のものを放置したり、繰り返して損傷したりすると、関節の不安定性が残存し軟骨損傷などの2次損傷を引き起こすので注意が必要である。初期治療としてはRICE(Rest: 安静、Icing: 冷却、Compression: 圧迫、Elevation: 挙上)を行う。

2.アキレス腱断裂
腓腹筋が収縮している状態で足関節を急激に背屈することによって生じる。アキレス腱断裂に対しては保存的治療でも治療は可能であるが、再断裂のリスクを考え、スポーツ選手には手術治療を行うことが多い。

頭・顔のケガ

1.顔面骨の骨折
ボールを手で扱い、身長より高いゴールに入れるという競技特性上、頭部・顔面の衝突は多い。鼻骨骨折や頬骨骨折などを起こすことがある。

2.脳震盪
アメリカンフットボールやラグビーなどのコンタクトスポーツと比べ頻度は少ないが、相手との衝突や転倒によって床へ頭を打ちつけることにより生じることがある。日本バスケットボール協会では、脳震盪が疑われた場合には次のように対応することを勧告している。「可能な限り試合を中断し、選手をコート外に移動。メディカルスタッフによる選手の評価。直ちに選手を交代させ、同日のゲーム復帰は避ける。ドクター等と協議し、必要に応じて医療機関を受診。選手に脳震盪の症状がある場合、24時間は選手に付き添う。脳震盪と診断された場合、段階的に競技に復帰することが望ましい。」日本バスケットボール協会のホームページ(http://www.japanbasketball.jp)を参照されたい。

疲労骨折

一度では骨折に至らない程度の力が、主にスポーツによって繰り返し加わることにより発生する骨折で、バスケットボールでは下肢に発生することが多い。通常は安静のみで治療可能であるが、脛骨の跳躍型疲労骨折と第5中足骨疲労骨折(ジョーンズ骨折)に対しては、保存的治療に難渋することがあり手術治療を考慮する。足舟状骨疲労骨折は診断・治療ともに苦慮することがあり注意が必要である。

ケガの予防

ケガの予防には、日常のトレーニングやストレッチなどのケアが重要である。自分にあったシューズの選択やインソールの作製も有効である。

マルファン症候群

マルファン症候群は高身長が一つの特徴であり、高身長の選手が多く参加するバスケットボールではマルファン症候群の選手が参加している場合がある。マルファン症候群は若年者でも突然死を来す可能性があり、日本臨床医学会ではバスケットボールなどの激しい運動は行わないように勧告している。しかし運動をするかどうかは個人の権利の問題でもあり慎重な対応が必要である。

おわりに

以上、バスケットボールに多いケガを中心に簡単に述べたが、バスケットボールに携わる人たちがケガに対するある程度の知識を持ち、より安全に楽しく競技に関わる一助となれば幸いである。