【区民公開講座】バレーボールのけがとその対処法~初心者から全日本選手まで~

日時 平成30年6月23日(土)15時00分~
場所 江東区医師会館 4階 講堂
講演者 筑波大学医学医療系 整形外科 全日本男子バレーボールチーム  西野 衆文

 

 バレーボールは相手とネット(男子は2ⅿ43cm、女子は2ⅿ24cm)で隔てられた競技であり、相手選手との直接の接触は少ない。そのため、試合中ならびに練習中のけがは比較的少ない特徴がある。しかし、硬いサーフェス(床)の上を繰り返しジャンプ、着地することで膝や足首(足関節)を始めとした下肢への反復性の障害が多い。その代表例がオスグッド病やジャンパー膝である。前者は小学生高学年から中学生の間の成長期にみられる疾患であり、後者はその後にみられる。いずれもジャンプなどで膝を伸ばす動作を繰り返すことで、大腿部の前面にある大腿四頭筋の腱が、その遠位側(膝側)で骨に着くところ(脛骨結節や膝蓋骨)を引っ張ることで発症する。発症した場合はある程度の安静も必要であるが、治療や予防には大腿前面のストレッチが効果的である(図)。これによって大腿四頭筋の柔軟性を獲得し、引っ張る力を軽減することができる。

 けがとしては、スパイクでは相手のブロックをよけるために空中での体幹や肩のひねり動作が加わることで筋肉や腱の損傷を生じやすい。また、その着地時に膝や足関節、足部を捻り靭帯損傷(捻挫)が起きやすい。レシーブではフライングレシーブなどボールに飛びつくこともあり、手や肘、頭頸部などのけがもみられる。また、手を使うトス(パス)、ブロックでは指のけがが絶えない。足関節捻挫はブロックやスパイクの着地時に味方や相手の足の上に乗り、内側に足をひねる(内返し)ことで外側(外くるぶし側)の靭帯を痛めることが多い。指のけがは突き指と呼ばれる指の周囲の靭帯・軟部組織損傷から脱臼、骨折までさまざまである。いずれの場合もRICE(ライス)処置と呼ばれる初期対応が非常に重要で、そのけがの治り方にも影響する。RICEとは処置の頭文字をとったものでRはRest(安静、固定)の意味であり、IはIcing(冷却)、CはCompression(圧迫)、EはElevation(挙上)である。

 体育館内での競技であるが空調のない施設も多く、夏期は特に熱中症に注意が必要である。熱中症は暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態であり、重症化すると命の危険もある。特に小児や高齢者では重症化しやすい。体育館内の温度を測定しできるだけ暑くない時間に練習を行うなどの工夫が必要である。また、適度な水分補給も必要である。

 水分補給は前述の熱中症の予防だけでなく、より高いパフォーマンスを発揮するためにも重要である。以下に運動時の水分補給の5つのポイントをあげる。①練習や試合の前から水分補給(30~60分前に200~500ml)、②のどが渇く前にこまめに飲む(15~30分前に200~250ml)、③適度に冷やしておく(冷蔵庫から出したくらいの温度:5~15度)、④練習前後の体重測定で適正な水分量をチェック(体重減少を2%以内に)⑤ミネラルと糖を含むスポーツドリンクを摂取する。

 スポーツドリンクには体液と浸透圧が近いアイソトニックタイプと、体液より浸透圧が低いハイポトニックタイプの2種類がある。摂取された水分が体内(血管内)にとりこまれるためには腸の膜を介する。そのメカニズムを理解するには浸透圧の理論(濃度を均等にするために水分は膜を介して浸透圧の低い方から高い方へ移動する)が必要である。運動時は汗をかくため、体内のナトリウムが汗と一緒に外に出てしまい、体液の浸透圧は下がる。この時にアイソトニックタイプのスポーツドリンクを飲むと、上記理論から水分の体内への移動がスムースにいかない。ハイポトニックタイプのスポーツドリンクであれば下がった体液の浸透圧と摂取した水分の浸透圧が近く体内への吸収を助ける。また、アイソトニックタイプは一般に糖分も高いため、胃に滞留しやすく胃の中に水がたまった感じが残ってしまう欠点もある。以上から運動前にはアイソトニックタイプ、運動中・後にはハイポトニックタイプのスポーツドリンクを摂取することが推奨される。

 心技体の充実もより高いパフォーマンスを発揮するためには欠かせない。その最も土台の部分にあたる「体」では食事が基本となる。基本栄養素のうちエネルギー源となる炭水化物(糖類)と体づくりに欠かせないたんぱく質は特に重要である。コンディションを整えるためにはミネラルや各種ビタミンも重要な役割を果たす。バレーボールナショナルチームの選手には定期的に管理栄養士からの指導を行っている。普段の食事から、それらの栄養素がバランスよく取れるようなフルコース型の食事を推奨しており、主食・おかず・野菜・果物・乳製品をとるように指導している。試合前は3、4時間前までに主食と果物を中心とした食事で炭水化物とビタミンを摂取するようにしている。