区民公開講座 2018 FIFAワールドカップ・ロシア大会での医療サポート

2019年6月8日(土) 14時30分~
江東区医師会館 4F 講堂

区民公開講座
2018 FIFAワールドカップ・ロシア大会での医療サポート

FIFAワールドカップ・ブラジル(2014)&ロシア(2018)日本代表チームドクター
順天堂大学保健医療学部理学療法学科
池田 浩

 

 2014 FIFAワールドカップ・ブラジル大会後のメディカルレポートでは、「2010年9月のチーム立ち上げ以降、このチームには、怪我の状態や血液検査の結果などから選手のコンディションを客観的に評価して、その結果に基づいて個別の対応(別調整など)を図るというコンセプトがあり、アジア予選も含めて多くの結果(勝利)を導き出してきた。しかし、ワールドカップ本大会に限ってみると、シーズン終了直後の海外組、シーズン開幕3ヶ月後の国内組、そして怪我からの復帰組というコンディションの異なる選手達に、ほぼ同一のトレーニングを課したことは、4年間に積み上げてきたものとは異なる対応だった。」と報告し、2018 FIFAワールドカップ・ロシア大会直前の国内(幕張)強化キャンプ後のメディカルレポートでは、「ロシアワールドカップ本大会に向けた基礎データ収集も目的に、代表候補27選手全員に対して、血液検査(クレアチンキナーゼ:CK)と唾液検査(コルチゾールなど)を行なった。CK値が、代表チームで設定したカットオフ値を超えた場合は、トレーニングのコントロールを行うとともに、クライオセラピーでの回復を促した。約10日間の強化キャンプおよび壮行試合終了後に、本大会に出場する23選手が選出され、オーストリアキャンプを経て本大会に挑むが、ワールドカップを勝ち抜くためには、今までに蓄積した経験(データ)を十分に活かしていくことが重要である。」と報告した。

 以上の結果(経験)を踏まえて、ロシア大会においては、連日、ドクター2名とトレーナー4名からなるメディカルスタッフが診察結果と検査結果を集約すると同時に、問題点(リスク)の抽出と介入(治療・施術)を行い、その結果を踏まえて、テクニカルスタッフが選手ごとにトレーニング負荷を設定した。その結果、全4試合において、日本代表チームの全出場選手の走行距離(総計)が、相手チームを上回るという良好なコンディションの維持、さらにはベスト16進出に結びついたものと考える。

 

 

 具体的には、メディカルスタッフは、1日複数回の診察(局所の評価)、毎朝の心拍数と体重測定、毎朝のワンタップを用いた選手の自己評価(疲労度・睡眠・食欲など)のチェック、さらに、筋肉の疲労度を確認するために血液検査(CK測定)と、内科的な疲労度を確認するために唾液検査(コルチゾール測定)を行なった。CK測定は、高強度トレーニングの前日とゲーム翌日(24時間後)を原則として合計8〜14回(選手によって異なる)行い、代表チームで設定したカットオフ値を超えた場合は、トレーニングのコントロール(スプリント・ジャンプ系の回避など)を行った。コルチゾール測定は、口唇ヘルペスや下痢など選手の体調に応じて適宜測定したが、カットオフ値を超えたケースはみられなかった。

 国内キャンプスタート時は怪我人が多く、メディアからは「野戦病院」とも報じられていたが、23選手全員が、全4試合に良好なコンディションで挑むことができた背景の一つには、約1ヶ月半という長期間の活動にも関わらず、トレーニング(対外試合は除く)によって発症した外傷(障害)や内科疾患のために、トレーニングを離脱したケースが皆無だったことが挙げられる。

 2018ロシア大会では歴史(ベスト8の壁)を変える事は出来なかったが、今回の経験を活かして、2022FIFAワールドカップ・カタール大会では、歴史の扉を開いてくれるであろう。